妊娠中のビタミンDサプリは子どものくる病を防ぐ?
妊娠中女性のビタミンDレベルと、赤ちゃんの骨の健康についても、よく話題になってきました。
「お母さんがビタミンD不足だと、産まれてくる子どもは骨に悪影響が出るに違いない」というのが定説ですが、実は、これも一貫したデータはないようです。
ということで、妊娠中女性のビタミンDサプリについて研究されている、信頼できそうな論文をご紹介します。
3960組の母子を調査した2013年の論文1
ビタミンDサプリの重要性を説く論文では、「妊娠中のビタミンD血中濃度は、出生児の骨の健康に影響があるに違いない」という理論で一貫している。
しかし、実際に出生児の骨格パラメータを調べた論文はほとんど存在せず、サンプルサイズも小さく、矛盾した結果になっている。
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我々は過去の研究を分析したが、母体のビタミンD血中濃度と出生児の全身BMCおよび脛骨BMCとの相関があるとするエビデンスは見つからなかった。
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そこで、本気を出して、3960組の母子を対象とした大規模な実験をした
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結果
妊娠中どの時期を計測したものであっても、母体のビタミンD血中濃度と出生児(平均年齢9.9歳)の骨格パラメータに相関はなかった
結論
子どもの骨の健康のために、妊娠中にビタミンDサプリを利用すべき明確なエビデンスはない。
9901組の母子を調査した2017年の論文2
※2017年に発表された、9901組の母子を対象に、多民族を母集団とした、さらに大規模な前向きコホート研究
母体のビタミンDレベルが子どもの骨に与える長期的な影響をみるために、幼児期(6歳)の骨の健康との関係を調べた。
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結果
・母親の妊娠中ビタミンD血中濃度と、子どもの6歳時点での骨格パラメータは関係なし
・出生直後の子どものビタミンD血中濃度と、6歳時点での骨格パラメータも関係なし
・6歳の子どもの、ビタミンD血中濃度と骨格パラメータは関係なし
・母乳育児と、6歳時点での子どもの骨格パラメータも関係なし
結論
妊娠中の母親のビタミンDレベルは、子どもの骨格パラメータへ与える影響は小さいのでは?
2016年にWHOによって発表されたガイドライン3, 4
WHOは、妊娠中女性と胎児に与える利益が不明瞭なことと、副作用の可能性を含めて議論が不十分なことから、現時点では、妊娠中女性へのビタミンDサプリは推奨していない。
最後に
ビタミンDサプリは、「ビタミンD血中濃度を高める効果があること」は、いくつもの研究で示されています。
が、それが実際に子どもの健康にどのような影響を与えるのかは、まだあまり議論されていないのが現状です(乳児期にビタミンDサプリを投与すると、ある疾患は減る一方である疾患は増える様子が観察されたり、骨のように、誰もが関連があると信じているものには影響がなかったりする)。
また、もしビタミンDレベルをヒトの健康の目安にしたいなら、”エピマー“を除いた血中濃度を調べることを含めて、妥当な基準を模索することから始める必要があるのではないかなと思います。
最後に、「母乳育児はくる病のリスクを上げる」という説は、医学系・生化学系の論文を100本以上チェックしても根拠が見つからなかったので、今となっては迷信になってしまったと言ってもいいのでは?と考えます(約30年前に流行した言説という印象)。
くる病とビタミンDのシリーズはこちらから読めます。
参考文献
1 Lawlor, Debbie A., et al. “Association of maternal vitamin D status during pregnancy with bone-mineral content in offspring: a prospective cohort study.” The Lancet 381.9884 (2013): 2176-2183.
2 Garcia, Audry H., et al. “25-hydroxyvitamin D concentrations during fetal life and bone health in children aged 6 years: a population-based prospective cohort study.” The Lancet Diabetes & Endocrinology 5.5 (2017): 367-376.
3 World Health Organization. WHO recommendations on antenatal care for a positive pregnancy experience. World Health Organization, 2016.
4 Guideline, W. H. O. “Vitamin D supplementation in pregnant women. 2012.” Disponible en línea(consultado 11 de diciembre 2017): http://apps. who. int/iris/bitstream/10665/85313/1/9789241504935_eng. pdf.
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