ビタミンD血中濃度を調べる研究の落とし穴

引退ビタミンD

母乳で育つ子どものビタミンD血中濃度を調べて、「基準より少ない子がいるから、母乳は、くる病のリスクがある」と主張する論文は、山ほどあります。

ところで、ビタミンD血中濃度で、本当に、「体内のビタミンDが足りているかどうか」が分かるのでしょうか。

知られざるビタミンDの挙動

ビタミンDは、体内で、様々な酵素によって、休眠→補欠→活性型へと構造を変えて効果を発揮できるようになりますが、その全てが使われるわけではありません。

(休眠、補欠、活性型ビタミンDとは→ビタミンDだけたくさんとっても意味がない?

不要なものはどうなるのでしょうか。

多すぎるビタミンDは、体にとって有害なので、生理活性をなくしたり、体外へ排出しやすくしたりするために、構造を変える(代謝される)のです。

その一つとして、ビタミンDのC3水酸基をエピ化する酵素が存在することが明らかになってきました1

エピ化とは、こういう感じに、生えているシッポの角度が変わることです。

エピ化

人間の目にはほとんど違いが分からないけど、生体内は厳密なシステムでできているので、これだけで、活性が大きく変わります。

全てのビタミンDの代謝物はC3エピ化されうるけど、補欠ビタミンDがエピ化されると、ビタミンDを目的地まで運んでくれるタンパクに結合する能力がへります。

活性型ビタミンDがエピ化されると、ビタミンD受容体へ結合しにくくなることで、転写活性や多くの生物学的影響が減ることが分かっています。

エピマーとなったビタミンDは現役ビタミンDとは役割が違うので、このブログでは引退ビタミンDと呼びます。

引退ビタミンD


ビタミンD血中濃度で一喜一憂できないワケ

「ビタミンD血中濃度」を測定するとき、ほとんどの論文では、補欠ビタミンDを調べています。

次が重要なポイントですが、補欠ビタミンDのエピマーは、元の化合物と、物理的性質や、重さや大きさなどで、見分けることができません

ということは、補欠ビタミンDと引退ビタミンDは、通常のHPLCやLCMS(ビタミンD血中濃度を測定するために使われる分析機器)では、見分けることができないのです。

つまり、これまで測定してきたビタミンD血中濃度には、この引退ビタミンDも含まれていて、その割合も分からないまま議論されてきたということ。

サプリで増えるのは引退ビタミンDかも?

乳児は、もともと引退ビタミンDの割合が多く、補欠ビタミンDと同等か、それ以上存在しうるそうです。

さらに、一般的には、サプリなどでビタミンDを過剰摂取した人ほど、代謝物も増えます。

当然、引退ビタミンDも増えるでしょう。

つまり、ビタミンDサプリでビタミンD血中濃度は確かに上がりますが、かなりの割合で代謝物である可能性があるということ。

たとえば、人間が体内で合成できない「ビタミンD2」のサプリを投与すると、投与したグループの方が、ビタミンD血中濃度のトータルは高くなります。

でも、体内で合成できる「ビタミンD3」濃度は、投与しなかったグループの方が高かったという研究結果があります2

体は、必要な分しか、作らないようにできていることを示す結果でもあります。

多すぎるビタミンDは、全て引退ビタミンDである可能性もあるのです。

ビタミンD2

まとめ

研究レベルでは、エピマーをのぞいた真の補欠ビタミンDレベルを測定しないと、ほとんど何も議論することはできません。

基準より血中濃度が低くても健康な子どもがいる背景には、この引退ビタミンDの存在も大きいのではないかと推測します。

ビタミンD血中濃度

エピマーをのぞいたビタミンD濃度の詳細が分かれば、より実用的な基準が見えてくるかもしれません。

続いての話は…

さて、「最近は、日光浴が減ったからビタミンD不足になりやすい」と言われることもあります。

これは本当なのでしょうか?

次から、日光浴とビタミンDの知られざる関係について取り上げたいと思います。

くる病とビタミンDのシリーズはこちらから読めます。

主な参考文献

Bikle, Daniel D. “Vitamin D metabolism, mechanism of action, and clinical applications.” Chemistry & biology 21.3 (2014): 319-329.

2 Greer, Frank R., and Sharon Marshall. “Bone mineral content, serum vitamin D metabolite concentrations, and ultraviolet B light exposure in infants fed human milk with and without vitamin D2 supplements.” The Journal of pediatrics 114.2 (1989): 204-212.

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