ビタミンDが関わっている骨の病気とメカニズム

ビタミンDと骨の病気

一般的には、「ビタミンDが足りないとくる病になる」と言われていますが、くる病は、ビタミンD摂取量が少なかっただけで発症したり、ビタミンDをたくさんとるだけで予防できたりするような、単純なものではないようです。

ビタミンDがどのように骨に影響を与えているかの詳細はまだ分かっていないようですが、現時点で分かっていることを少し見てみたいと思います。

前提として、ビタミンDは、休眠ビタミンD→補欠ビタミンD→活性型ビタミンDへと構造を変えます(ビタミンDの種類の話)。

ビタミンDと骨の健康

まずは、ビタミンDが骨の健康をどうやって守っているかの話。

「ビタミンDがカルシウムの吸収を助ける」とはよく聞くけど、実際には、『活性型ビタミンD』が遺伝子を読み込んで、必要な物質を作っている1

活性型ビタミンDが誘発するものの例

骨のミネラルの再構築をつかさどる

RANKL

SPP1

BGP

など

腸管からカルシウムの吸収を促す

TRPV6

CaBP9k

claudin 2

など

腎臓でカルシウムとリン酸の再吸収を制御

TRPV5

klotho

Npt2c

など

鳥での研究ではあるが、活性型ビタミンDは、遺伝子に頼らずに、直接カルシウムを吸収させる働きがあることも示唆されている2

ビタミンDとくる病

ビタミンDと骨の健康に関わる遺伝子を研究した論文がいくつかあるので、以下にご紹介します。

●補欠ビタミンDを作るCYP2R1の遺伝子に変異があるヒト(重症の骨の疾患あり)が、ナイジェリアで見つかる。

患者の補欠ビタミンD濃度は低いが、活性型ビタミンD濃度は正常だった2

●50人のナイジェリア人の遺伝子を調べたら、補欠ビタミンDを作るCYP2R1に変異がある人が一人見つかった。

ナイジェリア人にくる病が多いのには、遺伝子の影響もあるかもしれない3

●活性型ビタミンDを作る酵素の遺伝子に変異があると、活性型ビタミンDをほとんどあるいは全く作れなくなり、偽性ビタミンD欠乏性くる病になる4

偽性ビタミンD欠乏性くる病とは、「名前にビタミンD欠乏とついているけど、ビタミンDは不足していないくる病」という、ややこしい意味をもつ。

「くる病の原因はビタミンD不足」と信じられていた時代に、「ビタミンD欠乏性くる病」という呼び方が定着してしまったので、生まれた疾患名ではないかと考えられる。

ビタミンDサプリを与えてもくる病を治せないので、「ビタミンD耐性くる病」と呼ばれることもある。

※「ビタミンDは足りている」くる病についての論文は、昔からたくさん出ている。くり返しになるが、ビタミンD血中濃度を測定するだけでは、くる病のリスクを評価するのに不十分なのだ……

●活性型ビタミンDを作るCYP27B1の遺伝子に変異があると、補欠ビタミンDが蓄積して、ビタミンD血中濃度が上がる。

ビタミンDの血中濃度は高くても、活性型ビタミンDを作れないので、1型ビタミンD依存性くる病になる3

●ビタミンD受容体か、活性型ビタミンDを作るCYP27B1の機能を失ったヒトは、くる病になる。

しかしその場合も、カルシウムとラクトースをたくさん摂取するか、カルシウムとリン酸を点滴することで、カルシウムの吸収が促進され、くる病を防ぐことができる2

※ちなみに、母乳には、カルシウムとラクトースもたくさん含まれている

まとめ

2000年代以降、くる病には、複数の遺伝子変異が関わっていることが明らかになってきました。

「ビタミンD摂取量が少ないとくる病になる」

「ビタミンD血中濃度が低いとくる病になる」

という、単純な話ではないことがなんとなく伝わったでしょうか。

続いての話は…

これまでの話から、「母乳で育つとくる病になりやすい」という”常識”には、科学的根拠がほとんどないということがわかってきましたが、「ではどうすれば、効果的にくる病を避けられるか」という話も重要なので、次の記事では、『くる病予防』について触れておきたいと思います。

くる病とビタミンDのシリーズはこちらから読めます。

主な参考文献

Haussler, Mark R., et al. “Molecular mechanisms of vitamin D action.” Calcified tissue international 92.2 (2013): 77-98.

Bikle, Daniel D. “Vitamin D metabolism, mechanism of action, and clinical applications.” Chemistry & biology 21.3 (2014): 319-329.

Cheng, Jeffrey B., et al. “Genetic evidence that the human CYP2R1 enzyme is a key vitamin D 25-hydroxylase.” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 101.20 (2004): 7711-7715.

Tsiaras, William G., and Martin A. Weinstock. “Factors influencing vitamin D status.” Acta dermato-venereologica 91.2 (2011): 115-124.

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