血中ビタミンDは増えすぎないようにコントロールされていた

ビタミンDのコントロール

ビタミンDの研究者たちは、ビタミンDのことを、ビタミンというよりはホルモンとしてとらえています。

ビタミンDは、他のホルモンと同じように、体の中で作られ、少なくなりすぎても、反対に多くなりすぎても害があるので、コントロールされています。

体の中で、どんな風に作られているかのぞいてみると、「ビタミンDはたくさんとるほど良い」という単純なものではないことが、理解できるかもしれません。

今回は、ビタミンDを、休眠ビタミンD→補欠ビタミンD→活性型ビタミンDへと活性化していく酵素たちの話1

※ビタミンDの種類(休眠、補欠、活性型)については、過去記事参照。

休眠ビタミンDを補欠ビタミンDへ進化させる酵素

日光浴、サプリ、乳児用ミルクなどから得た”休眠ビタミンD”を、”補欠ビタミンD”として血中でアイドリングさせるために役立つ酵素の話。

●CYP2R1

補欠ビタミンDを作るカナメとなる酵素

この遺伝子を持っていないマウスは
補欠ビタミンDの血中濃度が半分以下まで減るが、ゼロにはならない

●CYP27A1
ミトコンドリアにある、補欠ビタミンDを作る酵素

この遺伝子に変異が入っているヒトは、胆汁やコレステロール代謝の異常により、脳腱黄色腫症になる。

しかし、くる病にはならない。(Moghadasian, 2004)

この遺伝子を持っていないマウス
別の経路で補欠ビタミンDを作る酵素であるCYP2R1の発現が亢進する(=増える)ので、逆に補欠ビタミンDの血中濃度が上がる


補欠ビタミンDを作るCYP2R1とCYP27A1の両方がないマウス
補欠ビタミンD濃度はゼロにはならないし、カルシウムとリン酸の血中濃度へほとんど影響しない


●補欠ビタミンDの生産に関わっているその他の酵素

CYP3A4(肝臓や腸に発現)も、補欠ビタミンDを作ることができる

心臓などに発現している、アラキドン酸のエポキシゲナーゼであるCYP2J2も、弱めの活性を持つ

活性型ビタミンDのコントロール

“補欠ビタミンD”の一部を、働ける形に活性化する酵素の話。

ホルモンと同様の活性をもつ”活性型ビタミンD”は、さらに厳密にコントロールされている。

●CYP27B1
腎臓にある酵素。活性型ビタミンDを作るカナメ


活性型ビタミンDを作る酵素は、3つのホルモンによって、厳密に制御されている。
※詳細なメカニズムは未解明

①副甲状腺ホルモン (PTH)→血中の活性型ビタミンDが増える

②線維芽細胞成長因子23 (FGF23)→活性型ビタミンDが減る

③活性型ビタミンD→活性型ビタミンDが増えると、自分たちを減らすように働く


骨の材料にもなるカルシウムの血中濃度が上がると、PTHが抑制される→活性型ビタミンDが減る

骨の材料にもなるリン酸濃度が上がると、FGF23が刺激される→減る

活性型ビタミンDは、PTHを抑制し、FGF23を増加させることでCYP27B1の活性を制限する→減る

活性型ビタミンD3は、CYP27B1の発現を直接阻害する(Kim et al., 2007)→減る

●CYP24A1

補欠ビタミンDと活性型ビタミンDを代謝する酵素。ビタミンDを減らす。

CYP24A1は、補欠ビタミンDと活性型ビタミンDが増えすぎることによる毒性を防いでいる

活性型ビタミンDは、CYP24A1を誘発する→ビタミンDを減らす

副甲状腺(PTG)は活性型ビタミンDを作れる
活性型ビタミンDはPTGにて、カルシウム感知受容体(細胞外のカルシウム濃度を感知する)を誘発し、PTGのカルシウムへの感受性を上げ、その結果、カルシウムによって、抑制がかかりやすくなる→ビタミンDを減らす

ポイント

ビタミンDを活性化していく過程は、いくつもの酵素が関わっている(「ビタミンDを摂る→体内のビタミンDが増える」という単純な話ではない)

・活性化する経路はいくつかある(あるビタミンDの血中濃度になるためには、いろんな要素が相互に関係している)

血中ビタミンD濃度が上がると、下げるメカニズムが活性化する(ビタミンDの血中濃度は高いほど良いという単純な話ではない)

続いての話は…

ここに書いたのはごく一部なので、実際はまだ解明されていないものも含めて、体内のビタミンDを維持、活用するために、とても複雑なメカニズムが存在します。

これを読むと、「ビタミンDに関わる酵素の遺伝子に変異があると、くる病のリスクが上がるかもしれない」と頭をよぎったのではないでしょうか。

次は、いよいよビタミンDとくる病について取り上げます。

くる病とビタミンDのシリーズはこちらから読めます。

主な参考文献

1 Bikle, Daniel D. “Vitamin D metabolism, mechanism of action, and clinical applications.” Chemistry & biology 21.3 (2014): 319-329.

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