乳腺炎はなぜ起こる?生理学的な観点から|WHO
時間が経って腐った母乳が刺激となって炎症が起こる、洋食を食べると乳腺炎になる、お母さんが疲れるとなりやすい…
いろんなことが言われていますが、乳房の中でどんなことが起こっているかを知ると、何に気をつけたらいいかが見えてきます。
乳腺炎;原因と対処法, World Health Organization
7.3 非感染性の乳腺炎
母乳中には、通常、炎症性・抗炎症性のサイトカインが含まれています。
抗炎症性サイトカインその他の要因は、乳児を保護していると考えられていますが(34; 153)、インターロイキン8(IL-8)のような炎症性サイトカインは、乳房を感染症から守るために、より重要でしょう。
乳腺炎の間、IL-8の濃度が上がると、それは炎症反応が起こっているサインとなります(46; 175)。
母乳中のサイトカインは、周辺組織の炎症反応を引き起こす可能性があり、他の成分も抗原性の反応を引き起こす可能性もあります。
炎症は、乳腺炎のサインや症状の原因となっています。
乳房の一部が、痛み、赤くなり、膨張し、固くなります。
通常は片方の乳房のみに症状が出ます。
乳腺炎になった女性はしばしば発熱し、具合が悪くなります。
しかし、二つの研究によると、乳腺炎になった女性の1/3から1/2は局所的な症状のみ現れました(7; 20)。
母乳の成分で炎症が起こる?
「母乳の成分で炎症が起こる」とは不思議ですよね。
ここで記述されているサイトカインによる炎症反応も、抗原性の反応も、『免疫』が関係していると言えます。
免疫反応やそれにともなう炎症反応も、まだ解明されていない部分がたくさんありますが、「何かトリガーを引かれないと活動開始しない」という原則があります。
よって、母乳の成分も乳管組織表面も、通常は炎症を引き起こすことはありません。
母乳が溜まっていても炎症は起こらない女性が多くいる一方で、乳腺炎になる女性は何が違うのでしょうか?
母乳の成分が炎症反応のトリガーになる条件とは
日本助産師会によって2015年にアップデートされた情報が分かりやすかったので、引用させていただきます。
乳腺炎の初期の原因は乳汁うっ滞が起こることである。うっ滞によって乳腺の分泌細胞の平坦化し、密着結合の透過性が高まると母乳の成分の一部が傍細胞経路を通って、間質(結合組織)の中へと漏れ出る結果、炎症反応を起こす。この間質で起こる炎症反応とその結果として生じる組織のダメージがうっ滞性乳腺炎につながる。この時点では細菌感染には至っていない。
つまり、母乳が溜まりすぎると、周囲を囲んでいる細胞の壁が押し広げられ、いつもはぴったりと細胞と細胞の間をくっつけている結合組織にすき間ができるようです。
そこから乳腺組織側へ母乳がもれ出すと、普通は出会うはずのない物質にたくさん出会ってしまうので、(異常事態に対応するために)免疫反応のスイッチが入りやすくなるのかもしれません。
すると、例えば風邪をひくと、免疫系の活性化に伴ってのどが赤くなったり腫れたり痛んだり、さらに悪化すると発熱したりしますが、まさにそれと似たような炎症反応が起こるんじゃないかと考えられます。
以上より、乳腺炎の原則は、
「乳腺組織の壁にすき間ができるほど母乳がパンパンに溜まると炎症が起こる」
と言えるかもしれません。
「時間が経つと母乳が腐る」という説を信じて、赤ちゃんが飲みたがる以上に搾乳や授乳を繰り返すやり方もあるようです。
しかし、必要以上に母乳を除去すると、生産能力が上がって、より早く母乳がパンパンに溜まるようになるので、乳腺炎予防として合理的ではないでしょう。
母乳が過剰に溜まるのを防ぐには…
最も重要なのは効率よく哺乳すること→ポジショニング
授乳間隔や授乳にかかる時間を妥当にすること→授乳パターン
いつもパンパンに母乳が溜まっている状態を改善すること→母乳過多
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