妊娠中の乳首マッサージで母乳率は上がらない?
日本では、妊娠中の乳首マッサージは「必要派」と「不要派」が混在するようです。
ちなみにWHOは、「不要派」です。
その主な根拠となった論文を読んでみました。
以下は、1994年に発表された、
陥没・扁平乳頭の女性が、妊娠中に準備をすることで、母乳率はどう変化したのか?
医療スタッフによる妊娠中の乳房チェックは意義があるのか?
の調査結果です。
<方法>
当時、世界的に広く用いられていた、次の2つの方法の有効性を調べた。
それぞれの処置による効果と、両方用いた場合の相乗効果があるかを調査した。
①ホフマンのエクササイズ(1953年~):指でマッサージすることで、乳頭組織をストレッチするもの
やり方:親指か人差し指で乳頭の近くを押さえ、乳輪の外側に向かってゆっくり押す。水平に5回、垂直に5回マッサージするのを、乳頭が引き伸ばしやすくなるまで行う。
②ブレストシェル(1946年~) :半球型のドームに平たい円盤が組み合わさったもの。ブラジャーの中に装着する。
目的:乳房の深い組織の結合を徐々に伸ばして緩めるため。
<結果>
ホフマンのみ、シェルのみ、両方あり、両方なしの全てのグループにおいて、産後6週時点で母乳育児をしている割合は、いずれも45%程度と変化がなかった。
<結論>
妊娠中にホフマンのエクササイズとブレストシェルを使用するように推奨することは、産後6週時点での母乳率を上げるために臨床的に有意義なメリットはなく、これらの処置は、妊娠中の女性に推奨するべきではない。
<主な条件>
調査に参加した女性463名の全員が満たした条件
- 母乳育児をするつもりである
- 単生児を妊娠中
- 満25週ー35週の間である
- 以前、7日以上授乳したことはない
- 子を養子縁組に出す予定はない
- 乳頭・乳輪を手術したことはない
- まだホフマンのエクササイズやブレストシェルは行っていない
- 少なくとも片方の乳房が陥没または扁平乳頭
陥没乳頭は乳頭が乳輪の内側に「陥没」しているかどうかの見た目で判断。
扁平乳頭はピンチテストという、親指と人差し指で乳頭をそっとはさんだときに伸びた長さが0.5 cm以下の場合を判断した。
データの統計学的解析は、オックスフォード大学のNPEUによって行われた。
<原文>
The MAIN Trial Collaborative Group. Preparing for breast feeding: treatment of inverted and non-protractile nipples in pregnancy. Midwifery. 1994 Dec;10(4):200-214
<ポイントのまとめ>
A:一番やってはいけないこと
妊娠中の女性の乳房をチェックし、陥没・扁平だった場合に、
- 「あなたは授乳に困難が生じる可能性がある」と告げ
- 「妊娠中に、マッサージなどで準備をしておくといい」とアドバイスすること。
やってはいけない理由
- 1992年に行われた調査で、「潜在的に授乳に困難がある」と告げられた女性の1割強が、「じゃあ母乳育児はやめておこう」と考えを変えてしまうなど、「乳房チェックを慣例化すること自体が害である」というエビデンスもある(本文より)
- マッサージ自体が母乳率を上げる効果はない(むしろ下げてしまう可能性も残っている)。マッサージに苦痛を感じることも多い。(本文より)
B:どうするとベターか
妊娠中の女性の乳房をチェックし、陥没・扁平だった場合に、
- 「あなたは授乳に困難が生じる可能性があるけど、それは克服可能なものです」と告げ
- 「産後、どうすれば授乳がうまくいきやすくなるのか」の基礎知識を与え
- 実際に、産後も熟練したスキルとポジティブな励ましでサポートする
C:Bを行うことが難しい場合
妊娠中の乳房チェック自体、やる意義はない。
妊娠中に知っておきたい母乳育児の情報は、タグ#出産準備からもどうぞ。
2017/4/15更新
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