実はビタミンD不足になるのはかなり難しい

ビタミンDは、私たちにとって、とても重要な物質です。
もし、体内のビタミンDがゼロになることがあったら、すぐさま糖尿病になり、重い感染症を発症するかもしれません。
骨もだんだんもろくなると思いますが、そうなるまで命の方がもたないかもしれません。
このように重要度の高い物質は、たいていの場合、よっぽどのことがない限り、生体内で不足しないような仕組みが備わっています。
今回は、すべての始まりである『休眠ビタミンD』の話。
脊椎動物は、簡単にビタミンDを補える仕組みを持っています。
ヒトの場合は、日光が肌に当たるだけで、体の中で、勝手に誕生します。
特徴的なのは、ビタミンDは酵素的な反応ではなく、紫外線と体温をエネルギー源として、簡単に合成できること。
ビタミンDの合成は2ステップ1。
①日光ステップ
材料はコレステロール(7-dehydrocholesterol)。
ヒトを含む脊椎(せきつい)動物の多くは、皮膚で大量に作られ、真皮や上皮細胞の細胞膜脂質二分子膜に取り込まれている。
この、皮膚細胞に大量にあるコレステロールに、紫外線が当たると、炭素結合の一部が切れて、ビタミンDの前駆体(プレ・ビタミンD)ができる。
②体温ステップ
プレビタミンDは、そのままでは不安定な構造なので、炭素結合を回転させつつ電子を移動させて、安定な構造へ変化する。
これでビタミンDのできあがり。
このとき、温度が高いほど電子の移動が速くなるので、私たちの体温が有利に働く。
でも、冷蔵庫レベルの低い温度でも、ビタミンDは問題なくできることが分かっている。
プレビタミンDの半分がビタミンDに変化するまでにかかる時間は
37度 2.5時間
25度 8時間
5度 72時間
触媒も何も必要としない化学反応の中では、かなり速い反応である。
ビタミンDはほとんどタダで手に入る
一般的には、生体内の多くの化学反応は、酵素が起こしている。
化学反応を起こすには、たくさんのエネルギーを必要とするが、高温、酸性やアルカリ性などの厳しい条件、長時間反応などを、体内で起こすのは無理だからだ。
その代わりに、酵素がエネルギーの高い壁をスッと越えさせてくれるのである。
しかし、ビタミンDの合成は、酵素すら必要としない。
その辺に大量にあるコレステロールを材料として、地球上に普通にある日光だけで、ビタミンDはどんどん合成され続ける。
酵素を用意するにも、たくさんの材料とエネルギーを必要とするが、私たちにとって、ビタミンDは、ほとんどタダで手に入るのである。
一般的には、子どもは大人よりもビタミンDの材料をたくさん持っていて、体温も高い。
ちょっと太陽の光を浴びようものならバンバン合成されてしまうので、ビタミンD不足になる方が難しいのである。
続いての話は…
日光を浴びるとバンバン合成されるということは、日光を浴びる時間が長くなるほど、ビタミンD合成量は増えるのでしょうか?
日焼け止めを使うと、ビタミンD不足になるのでしょうか?
次は、ビタミンDと日光浴の関係について、もう少し詳しく見てみたいと思います。
くる病とビタミンDのシリーズはこちらから読めます。
主な参考文献
1 Tsiaras, William G., and Martin A. Weinstock. “Factors influencing vitamin D status.” Acta dermato-venereologica 91.2 (2011): 115-124.
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