授乳すると嫌な気持ちになる|D-MERの原因と対処法

不快性射乳反射

赤ちゃんに授乳すると、気分が悪くなったり、暗い気持ちになったり…

これは無意識に赤ちゃんを拒否してるサイン?こんなの自分だけ?

 

…実は、このように「授乳するとネガティブな気持ちになる症状」は、誰にでも起こりうるようです。

その原因と対処法を簡単にまとめます。

 

 

授乳すると気分が落ち込む…その名は”D-MER”

D-MER;Dysphoric milk ejection reflex(不快性射乳反射)

 

どんな症状?

射乳の直前に、ネガティブな感情や不快感、人によっては怒りなどが生じる。その強さや、起こる頻度は、個人差がある。

 

・短時間(長くても数分以内)だけ起こり、射乳のピークを過ぎるとすっかり不快感は消える。

 

・多くは産後数週間の間だけ起こり、月齢3ヶ月になるころには消える。

まれにずっと続くが、頻度は減る傾向にある。

 

 

原因は?

・射乳反射が起こる際に、ドーパミン活性が不適切になることが原因かもしれない

すべての母親は、授乳する際に、母乳を作るホルモンであるプロラクチンの血中濃度を上げるために、ドーパミンレベルが一時的に下がり、その後安定する。

ドーパミンはポジティブな気分に関係していて、ドーパミンの挙動がうまくいかないと、D-MERが起こる。

 

 

こんな特徴があります

・D-MERは心理的な反応ではなく、ホルモンによる反射的なもの

ひざをタップすると勝手に足が上がるのと同様に、意思と関係なく起こる。

 

母乳育児や、子どもに対する嫌悪感ではない。

 

・産後うつや気分障害とも別のもの。

 

・《D-MERが起こるかどうか》と、母親の人となりは関係がない。

(母親に向いていないから、ネガティブな性格だから、などとは全く関係ないということ)

 

・お母さん自身に、過去に心理的なトラウマになるような経験があったかどうかとも関係ない。

 

 

対処法は?

《軽症の場合》

気持ちの問題ではなく、体の問題だと知るだけで、ずっと付き合いやすくなる。

簡単な記録をつけると、急なストレス・脱水・カフェイン摂取など、症状を悪化させるパターンが分かり、「いつも以上に休息を心がける・十分な水分をとる」などの対処がしやすくなることもある。

 

《重症の場合》

ドーパミン再取り込み阻害薬、ドーパミン受容体の活性化物資(アゴニスト)、その他ドーパミンの働きを助ける薬剤が役に立つかもしれない。

 

・プソイドエフェドリン(ディレグラなど;鼻炎薬)はプロラクチンレベルを下げるので、ドーパミンが増えるかもしれない。

 

・メトクロプラミド(プリンペラン;胃腸薬)は抗ドーパミン作用があり、D-MERを悪化させる

妊娠中に静脈投与された場合、D-MERに似た反応が起こる。

 

 

その他情報

・ニコチンはドーパミンレベルを上昇させるので、D-MERが改善しやすくなる。

(タバコは赤ちゃんにとってリスクが高いので、専門家とよく話し合う必要があります。ドーパミンを上昇させる効果は、喫煙しているお母さんがタバコをやめられない理由の一つになっているかもしれないので、頭ごなしに「タバコはダメ」と禁止しても逆効果かもしれません)

 

・たまに、チョコアイスを夜に好きなだけ食べると、一時的にD-MERがなくなるという情報も。

(これは、ファミリーサイズのアイスを独占するようなレベルを意味しています。チョコアイスの成分によるものか、多大なる多幸感を得やすい状況によるものかは不明)

 

 


最後に

ここ6-7年で世界的に有名になってきたD-MERですが、昔から存在はしていたようです(研究はまだ発展途上)。

みんな、密かに我慢したり授乳を諦めたりしていたのかもしれません。

 

「危険なサインでもなんでもないことを知るだけで十分だった」というお母さんも多いようです。

 

プロラクチンと関連しているということは、新生児期は特に、夜間の方が症状が出やすい可能性もあります。

「今、プロラクチンを出すために、ドーパミンレベルが一時的に下がったんだな〜」と理解することが役に立つかもしれません。

 

また、「嫌なら、授乳やめれば?」で済ませるのではなく、

「これはホルモンによる反射的な症状であり、新生児期を過ぎればなくなることが多く、症状が重ければ薬剤治療も考えられる」という情報をもとにした、専門的なサポートが必要とされています。

 

 

主な参考文献

Heise, Alia M., and Diane Wiessinger. “Dysphoric milk ejection reflex: A case report.” International breastfeeding journal 6.1 (2011): 6.

 

 

理系育児_母乳育児編

 

 

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コメント

    • みぃこ
    • 2017年 7月 27日

    この記事を読んでスッキリしました。
    私も産後~1ヶ月半くらいまで、吸われる度に最初だけ嫌な気分になりました。何とも言えない不快感です。
    母乳育児が軌道に乗ってからはいつの間にか無くなりましたが、不快になるなんてダメな母親だと何度も思っていたので、この記事に救われました。
    本も愛読しています。いつも納得で、救われています。

    • am
    • 2017年 9月 23日

    これ私もなりました。そういうことだったんですね。混合苦しい思いをしている時に一に抱っこ二に抱っこという本で「人工乳を与えてる親は授乳の度にごめんねママを許してね」と心の中で言うのが礼儀と読んでさらに凹みました。
    出版する本には気をつけてほしいなーと思いました。sumireさんの本はそういうよくわかんない教条主義的なものがなくて楽に読めます。

    • こういう場合は赤ちゃんに謝るべしと、他人が口出しするのは、大きなお世話ではないかという感じですね。

      書籍もお読みいただきありがとうございます。
      私の場合は、逆にエモーショナルな話を省略しがちなので、淡々としたスタイルが合う方向けになっているかもしれませんね。。

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