「母乳=くる病のリスク大」は濡れ衣

くる病とは、十分なカルシウムが吸収・沈着できずに、骨の成長が不十分になってしまって起こる病気(低身長や骨の変形など)。

 

何十年も前から、くる病の原因の一つとして、母乳育児が取りざたされてきました。

その共通するロジックはこんな感じです↓

 

①母乳にはビタミンDが少ない

②カルシウムの吸収にはビタミンDが不可欠

③くる病はカルシウムが不足することで起こる

→つまり、母乳で育っていると、くる病のリスクが上がるに違いない!

 

いかにも筋が通っているように見えますが、前提条件が違えば、いつも結論は大どんでん返し。

ということで、①と②をくつがえす研究結果をご紹介します。

 


①について:そもそも、母乳中のビタミンD濃度は、ミルクと変わらない!?

ビタミンDは、水より油に溶けやすい性質があります。

だから、ビタミンDの濃度を測定する時は、母乳を水部分と油部分に分けて、油部分のみを調べていたそうです。

 

でも実際は、水に溶けやすい形(硫酸塩)として大部分が存在しているようなのです。

そこで、母乳の水部分も調べてみると、平均で約1 ug/100 mLもの濃度があることが分かったのですが、これは日本で市販されている粉ミルクと変わらないのです。

初乳はさらに多く、約1.8 ug/100 mlも含まれていました。

 

実際は個人差が大きい(グラフでは0.5~1.2 ug/100mLのばらつき)ようなので、絶対的な数字にあまり意味はないですが、少なくとも「ほとんど入ってない」という表現は間違いという可能性が高いです。

 


②について:そもそも、赤ちゃんは、ビタミンDがなくてもカルシウムを吸収できる!?

大人の場合は、カルシウムの吸収量を制御するメカニズムがあります(摂り過ぎて害が出ないようにできている)。

また、ビタミンDはカルシウムを吸収するためにとても重要な役割を果たしていると言われています。

 

でも、幼い赤ちゃん(少なくとも月齢6カ月頃までは調査済み。それ以降は不明)は、体内のカルシウムが十分足りていても、また、ビタミンDの助けを借りなくても、どんどんカルシウムを吸収してしまうメカニズムがあるようです。

(ビタミンDのサプリメントありなしで比べても、カルシウムの吸収量や、骨のミネラル量は大差なく、単純に、カルシウムの摂取量が増えるほど、吸収量も増える傾向があった)

 

ビタミンDのサプリメントの効果を調べた論文では、満期産児も早産児も「カルシウムの吸収を助けるために、ビタミンDのサプリメントを与えても意味がない」と結論付けられているほど。

 


<「母乳だけじゃ不十分だろう」というイメージ戦略にハマってない?>

母乳とビタミンD(あるいはくる病)についての論文を検索してみると、サンプルサイズが小さく結論が怪しいもの、そもそも①と②を前提としているものがこれまでの流れに影響を与えてきたようです。

全体的にもやっとした状態のまま、なんとなくのイメージで、今まで議論されてきたのかな~という印象です。

 

もやっとしてるので、はっきりした結論は誰にも出せないと思いますが、今のところ正しい可能性が高いのは「くる病はビタミンD欠乏よりも、カルシウム欠乏でなるっぽい」ということだけです。

そもそも「ビタミンDの推奨量は議論の余地がある」そうで。

 

専門家の方は、母乳に警鐘を鳴らす前に、最低限、統計学的に信頼できるサンプルサイズを確保したうえで、「そもそも前提条件は正しいのか」というところから、きちんと検証し直して欲しいな~と思います。

 


<親にとって実践的な話をまとめると…>

 

●母乳にはカルシウムも十分に入っているので、欲しがるだけ飲ませていれば大丈夫なんじゃないかな。

●「窓もない暗い部屋に引きこもっている」とかじゃなければ、日光浴させなきゃ!とピリピリしすぎなくても大丈夫なのかも。

●なによりも、日本流の離乳食は低栄養になりがちなので、月齢6カ月から様々な食材を少しずつ食べさせていくことの方が、様々な疾患の予防に重要なのでは→※WHO推奨|離乳食で食べさせたい6種の食材

 

そもそも血中のビタミンD濃度は、乳児の骨の健康と相関がないということも分かってきました(ちょっと理系な育児「母乳育児編」より)

似たような話→※「母乳=貧血のリスク大」じゃなかった!


<主な参考文献>

1. DILNAWAZ R. LAKDAWALA ELSIE M. WIDDOWSON. VITAMIN-D IN HUMAN MILK. Lancet, 1977

 

2. Felix Bronner, et al. Net calcium absorption in premature infants: results of 103 metabolic balance studies”2. Am J C/in Nutr, 1992;56: 1037-44.

 

3. Roberts CC, Chan GM, Folland D, Rayburn C, Jackson R. Adequate bone mineralization in breast-fed infants. J Pediatr, 1981;99:192-6.

 

4. Mimouni F, Campaigne B, Neylan M, Tsang RC. Bone mineralization in the first year of life in infants fed human milk, cow-milk formula, or soy-based formula. J Pediatr 1993;122:348-54.

 

5. Mi Jung Park, et al. Bone mineral content is not reduced despite low vitamin D status in breast milk-fed infants versus cow’s milk based formula-fed infants . THE JOURNAL OF PEDIATRICS, VOLUME 132,NUMBER 4, APRIL 1998

2017/5/13更新

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