妊娠中の乳首マッサージのメリット・デメリット

妊娠中に乳首マッサージをすれば、乳首の柔軟性が向上するとか、皮膚が強くなって授乳の痛みを回避できるなどと言われています。

でも、どのくらいの割合で柔軟性が向上したか、授乳の痛みが回避できたか、などの「実際に、産後どうなったか」という話は聞いたことがないのです。

トラブルを回避できる画期的な方法があるなら、なぜ今でも多くの女性が産後もトラブルだらけなのかが、不思議なのです。

ということで、以下は、1994年に発表された、産後の母乳率について調べた研究結果です(前回の記事の続き)

この論文では、当時、世界的に流行していた2つのやり方について調査しています。

妊娠中に、ホフマンのエクササイズとブレストシェルを用いた結果。

●メリット

ホフマンのエクササイズは乳首からの出血と、抗生物質を必要とするような乳房の感染・炎症を減らす(効果があった割合自体は低い)

●デメリット

産後の母乳率、乳首の痛み、乳房の怒張や、軽度の感染・炎症が生じる割合は変わらない。

多くの女性は、これらの処置に不快感や痛みを訴え、実行困難なケースも多々あった。

特にシェルは、効果がないだけでなく、むしろ母乳率が下がってしまう可能性もあった。

●その他

妊娠中にホフマンのエクササイズを行っても、早産のリスクは上昇しない

エクササイズやシェルを用いる頻度が違っても、母乳率は変わらない(毎日行ったグループも、たまに行ったグループも同じ)。


<調査内容>

●エクササイズあり・なし、シェルあり・なしの4つのグループで、母乳育児にどんな困難が生じたかの調査結果(複数回答)

  • ポジショニングと乳房への吸着が難しかった
    全てのグループで75%程度
  • 乳首の痛みやひりひり感
    全てのグループで65%前後
  • 乳首からの出血
    エクササイズあり:20%程度
    エクササイズなし:40%程度
    シェルはあり・なし共に30%程度
  • 乳房の怒張
    全てのグループで55%程度
  • 乳房の感染・炎症(抗生物質使用)
    エクササイズあり:6
    エクササイズなし:14
    シェルはあり・なし共に10%程度
  • 乳房の感染・炎症(抗生物質未使用)
    全てのグループで5%程度

 

●37週前に早産になった割合

ホフマンありが4%なしが3%、シェルありが5%なしが3%

 

●処置を実行した頻度内訳

ホフマン

12回、11回、時々、やらなかった、不明

(エクササイズをできなかった理由は、不快・痛みのために非常に時間がかかったり、恥ずかしく思ったりしたため)

 

ブレストシェル

毎日、週に2日~6日、時々、やらなかった、不明

(使用しなかった理由は、不快感や痛み、恥ずかしさ、乳房の形や感覚が変化してしまうから)

 

<原文>

The MAIN Trial Collaborative Group. Preparing for breast feeding: treatment of inverted and non-protractile nipples in pregnancy. Midwifery. 1994 Dec;10(4):200-14

妊娠中にエクササイズをしていても、乳房に赤ちゃんを吸着させる難しさや、乳首の痛み、乳房の怒張、軽度の感染・炎症を減らすことはできないんですね。

しかし、産後、「重症の乳房トラブル」は回避することができるかもしれないんですね(ただし効果があった割合は低い)

<結論>

・母乳率を上げる目的のために妊娠中にブレストシェルを使用することは、害はあってもメリットはない。

・ホフマンのエクササイズは、母乳率がもしかしたら下がってしまうかもしれないという可能性は残っているけど、エクササイズが不快じゃないなら、大きな害はなさそうなので、ダメもとでやってみてもいいかもしれない。もしやるとしたら、「少なくとも1日に3回以上を毎日」やれば、何か有意に効果が出るかもしれない(出ないかもしれない)


<エクササイズそのものの効果は?>

そもそも、エクササイズを行った結果、「乳首の伸展性は向上するのか?」が気になります。

参照論文(※1)に、一つの結果が書いてありました。

産後の乳首の解剖学的な改善は、妊娠中に準備をしたかどうかに関わらず、約半数の女性にみられた(むしろ準備を行わなかった女性の方が改善した人数が多かった)」

(※1) Alexander J, Grant A, Campbell M 1992 Randomized controlled trial of breast shells and Hoffman’s exercises for inverted and non-protractile nipples. British Medical Journal 304: 1030-l032 Altman D G 1991 Practical

これは対象となった人数が少ないので、誤差範囲を考慮すると、

「妊娠中に乳首の進展性が改善するかは、妊娠中の準備をしたかどうかよりも、個人差の影響の方が大きい」

ということじゃないかなと考えられます。

(1958年の調査で、「出産回数を重ねるにつれ、乳首の柔軟性は改善していく」ことが示唆されている)

これだけ書くと、「じゃぁ何をやってもダメなのか?」と思われてしまうかもしれませんが、そうではないのです。

エクササイズよりもっと重要なこと→産後早期に母乳育児を諦めた理由トップ3

2017/4/16更新

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