日焼け止め・高緯度・冬はくる病のリスクが上がる?

日焼け止め・季節・緯度・肌の色

ビタミンDは、日光を浴びることで体内で合成されます。

「再びくる病が増えてきたのは、日光を避けるようになったからだ」という主張がされることもあります。

これまで、「日光浴が少ない人、日焼け止めを使う人、緯度が高い地域に住んでいる人、冬期、肌が黒い人種は、十分な量の紫外線が肌内部に到達しにくいために、ビタミンDが作られにくく、くる病になりやすい」というのが常識でした。

しかし、実は、これらの説を裏付ける証明はほとんどされておらず、矛盾するデータも存在するのです。

ということで、今回は、日光浴とビタミンDについての話。

日光浴するほどビタミンD合成量は増える?

何十年も昔は、「ビタミンD補給のために、乳児はオムツ一枚の状態で、1日8時間以上日光浴させるべし」などのワイルドな論文があったほど、日光浴の程度と、ビタミンDの合成量、およびヒトの骨の健康は相関していると予想されていた。

しかし、ビタミンDの合成量と、日光浴の時間、緯度、日焼け止めとの関係は、単純なものではないことが分かってきた。

日光浴の時間とビタミンD合成量は比例する?1

紫外線によって生成したビタミンDは、さらに光を浴びると分解してしまうので、収率は10-15%ほどまで下がる。
日光浴のし過ぎによって、過剰なビタミンDの生成による細胞毒性が生じないための仕組みである。

また、紫外線を繰り返し照射することでビタミンDの血清中濃度が上がることは示されたが、照射量と濃度の直線関係は証明されていない。

つまり、光エネルギーが多いほど、合成量も増えるが、分解量も増えるので、2倍浴びたら2倍に増え、3倍浴びたら3倍に、とはならないのである。

日焼け止めを使うとビタミンD不足になる?1

オーストラリアで、夏季にプラセボグループと日焼け止めグループで、ビタミンD血中濃度に違いはなかったとする研究がある。

また、日焼けをした肌は、健康な肌の40%ほどしかコレステロールを持たず、ビタミンD欠乏症になりやすい。

日焼け止めと、くる病の関連を証明する研究も見つからない。

肌が黒い人種はくる病のリスクが高い?

肌が黒い人種は、白い人種に比べてビタミンD血中濃度が低いことが多いため、くる病のリスクがあると信じられている。

しかし、肌が白い人種と黒い人種、夏と冬のビタミンD血中濃度を比較すると、カルシウム、活性型ビタミンDは季節関係なく、補欠ビタミンDは夏に圧倒的に高かったという研究結果がある。

さらに、補欠ビタミンD血中濃度は、冬は人種間で差がないが、夏は肌が白い人種が高いことも分かった2

ここで注目したいのは、活性型ビタミンD濃度は、季節や、人種によって、差がなかったということである。

活性型ビタミンD濃度が一定だったということは、「ビタミンDの供給量は、季節や人種による悪影響を受けていない」と推測できるからだ。

夏にビタミンDの血中濃度が上がるのも、肌が白い人種の方が血中濃度が高くなるのも、過剰なビタミンD合成の結果、引退ビタミンDが増えた影響も大きいと考えられる。

※ここに出てくるビタミンDの違いはとても重要なので、詳しくは以下をご覧ください

休眠、補欠、活性型ビタミンD

引退ビタミンD

アフリカのナイジェリアは、肌が黒い人種が多く、くる病患者が多い特徴があるようで、よく論文になっている。

その中で、ナイジェリアのくる病の子どもを調べたら、

・日光浴

・ビタミンD血中濃度

・カルシウム血中濃度

・母乳育児

関係なさそうということが分かった3

これまで、肌が黒い人種のくる病患者は、移民や途上国の住民ばかり調査対象になってきた。

生育環境に課題がある可能性は無視され、「肌が黒い」ことだけをリスク要因とされてきたのだ。

肌が黒いと、紫外線を当てたときに生成するビタミンD量が減ることは分かっているが、それがくる病のリスクを高めるほどのインパクトを持っているかは、証明されていない

緯度や季節とビタミンD

日光はビタミンDレベルに重要だが、それだけで語ることはできない。

ハワイ、フロリダ州、アリゾナ州、ブラジル、インド、オーストラリアなど、十分な日光がある地域でも、ビタミンDレベルが低い母体が多くを占める調査結果がある1

様々な論文を見ていると、「赤道に近い人ほど、ビタミンDレベルが高い」という一貫した傾向は見つからず、「赤道に近い人も、北極に近い人も、ビタミンDレベルが基準より低いことはよくある」という印象を受ける。

まとめ

紫外線量が減ると、ビタミンD生成量も減ることは調べられているが、くる病のリスクを上げるほどのインパクトがあるかは、程度問題を含めて何も分かっていない。

今のところ、「日焼け止め、肌の色、緯度や季節がくる病のリスクを上げる」という説は、ただ一つ、ビタミンD血中濃度のみが注目されてきていて、実際に骨の健康にどんな影響があるかは分かっていない(しかも、矛盾するデータも出ている)。

また、日焼け止め、黒い肌、あるいはマイルドな日光量は、「ビタミンD合成に必要な光エネルギーが減る」というデメリットだけでなく、ビタミンDの原料であるコレステロールを守ったり、過剰な光からビタミンDを守ったりするメリットもあるので、必ずしもビタミンD不足につながるわけではないようだ。

また、いくつもの研究で、同じ量のビタミンDが供給されたときに、もともとビタミンD血中濃度が低い人ほど、血中濃度が大きく上がりやすいことが分かっている。

ビタミンDの供給量が多いほど、ビタミンD血中濃度が高くなるという、単純な関係ではないのである。

続いての話は…

私たちの健康を保つために、ビタミンDは欠かせません

また、体内のビタミンDレベルを維持するために、日光が重要なことにも変わりありません。

※ビタミンDサプリ推進派は、『ビタミンDの経口摂取量』を重要視するが、それ以外の研究者は、『日光がビタミンDの主な供給源』と考えているよう

一方で、これも信じられていることとは違って、たくさん日光浴をしていても、体内のビタミンDが十分にあっても、くる病になることがあるようです。

なぜでしょうか。

次は、遺伝子に注目してみたいと思います。

くる病とビタミンDのシリーズはこちらから読めます。

主な参考文献

Tsiaras, William G., and Martin A. Weinstock. “Factors influencing vitamin D status.” Acta dermato-venereologica 91.2 (2011): 115-124.

Oliveri, M. B., et al. “Seasonal variations of 25 hydroxyvitamin D and parathyroid hormone in Ushuaia (Argentina), the southernmost city of the world.” Bone and mineral 20.1 (1993): 99-108.

Pfitzner, Mark A., et al. “Absence of vitamin D deficiency in young Nigerian children.” The Journal of pediatrics 133.6 (1998): 740-744.

関連記事

コメント

    • ゆきママ
    • 2018年 8月 20日

    はじめまして。
    昨日初めてこのサイトを知ってから、すぐに本を購入させていただきました。
    今日届く予定なのでとても楽しみです!
    この記事とは関係ありませんが、悩みを聞いて頂けますでしょうか?
    このサイトの記事をいろいろ読ませていただいたところ、授乳は片方を欲しい分だけ飲ませてあげる事や、泣く前に出すサインに気づいてあげる大切さなど、今まで習ったこととは全く違う内容が書かれてあり衝撃を受けました。
    そこで昨日から息子が欲しがる分だけあげるように心がけていますが、1日中あげているように感じます。
    眠くて泣いているのか、おっぱいがほしくて泣いているのかがわかりません。
    下記が息子の今の状況です。
    ・現在2ヶ月に入ったばかり
    ・授乳間隔がほぼない 15〜30分で泣く
    ・授乳時間が長い 30分以上
    ・うとうとと寝ながら飲むのでの話飲めている方わからない
    ・うんちは黄色いどろっとしたうんちを1日1〜2回 2日に1回の時もある
    ・おしっこは透明で1日10回程度
    この状況は月数が経てば少しはマシになりますでしょうか?
    なにかアドバイス頂けると大変助かります…。

    • はじめまして。書籍までご購入いただきありがとうございます。
      さて、赤ちゃん主導の授乳をしてみたら、ひっきりなしに授乳している感じになったのですね。
      授乳が頻繁すぎるよくある理由として、母乳過多と、良くないポジショニングになっていることがあります。
      まずはそれらをチェックしてみてはいかがでしょうか?

      眠くて泣いているのか、お腹が空いて泣いているのかは、難しいですよね。私も赤ちゃんのサインを拾いまくってなんとなくパターンをつかむまでに数ヶ月かかった気がしますし、何を求めてるかサッパリなこともたくさんありました。

      でも、赤ちゃんのサインを拾いまくっていると、その後の離乳食にもスキルが活きてくるし、挑戦するといろいろ面白い発見があると思います!

  1. この記事へのトラックバックはありません。

理系育児オススメ記事

ページ上部へ戻る