「母乳=くる病のリスク要因」と主張する論文の特徴

サンプルサイズが小さい

「母乳に含まれるビタミンDは少ないから、くる病のリスクがある」…今では、ほとんど常識のように語られている説です。

しかし、くる病に関する論文を100本くらいチェックしてみると、その根拠とされてきた論文には、こんな特徴があることが分かってきました。

クライテリアがない

質の高い研究では、「調べたいテーマ(母乳とくる病の関係など)」に影響を与えてしまう他の要素をコントロールするため、いくつか基準を決めておくことがある。これはとても大事なこと。

例えば、「経済水準が基準より低い家庭は、対象から外す」など。

なぜなら、子どもの骨に問題があったとしても、栄養失調の母親から生まれ、低栄養の食生活で育った可能性があると、母乳の影響を考えることが難しいから。

母乳とくる病の論文では、このようにクライテリアがある論文はほとんど見ない。

クライテリアがない

ランダム化されていない

質の高い研究では、比較したいテーマに影響してしまう要素を無視できるように、サンプルをランダムに選ぶことがある。なぜなら、母乳育ちの子の骨に問題があったとしても、母乳以外にも条件がかたよっていれば、どれが真の原因か判断できないからだ。

くる病と母乳を関連づける論文では、このようにサンプルがランダム化されているものはほとんど見ない。

クライテリアがない

因果関係は示さない

因果関係とは、「母乳がくる病の原因の一つ」といえる関係性があること。

たとえば、母乳がリスク要因だというためには、「母乳を飲むと、どんなメカニズムでくる病になるか」を直接示せると、一番強い。

これはたとえば、「母乳中の〇〇という成分が、赤ちゃんの〇〇の受容体を活性化して、こういうカスケードで、くる病を誘発する」、というようなことである。

信じられているイメージと違って、今のところ、機序を含めて、因果関係を示す研究結果は、存在しないようだ。

因果関係を示さない

相関関係も示さない

相関関係とは、「直接の原因か分からないけど、母乳育児はくる病の発症に何かしら影響している」という感じ。

「いい研究デザインで、誰が調べても、相関関係がある」となると、理由は分からなくても、科学的に「関連がある」とみなされる。

例えば、「母乳グループ」の方が、「(母乳以外の条件が等しい)対照グループ」よりも、はっきりとくる病の罹患率(りかんりつ)が高いことを示せると、母乳とくる病の関連を示唆(しさ)することができる。

しかし、信じられているイメージと違って、くる病と母乳の論文では、相関関係を示したものすら、見つけることができない。

相関関係を示さない

サンプルサイズが小さい

比較したい要素(母乳)以外の影響をできるだけ小さくするためには、サンプルはできるだけ多い方がいい。

なぜなら、栄養失調、他の疾患を併発している、ミルク以外にビタミンD強化された食品をとっている人など、「たまたま」予想外の要素をもつ人がまぎれ込んでいても、分母が大きいほど無視できるので、データの信頼性が増すからだ。

体感的には、サンプル数が数百以上あれば、わりと信頼できる(研究デザインにもよる)。

数千以上あれば、結果が逆転することはほとんどない(研究デザインにもよる)。

しかし、母乳とくる病を関連付ける論文では、サンプルサイズが小さいのが特徴的(n数ひとけたとか)。

サンプルサイズが小さい

対照群がない

「母乳がくる病のリスクを上げている」と言いたいとする。

たとえば、科学的には、「母乳以外の要素がランダム化、コントロールされたグループ」を対照群として、母乳アリ/ナシで差が出れば、母乳との関連を示唆することができる。

しかし、母乳とくる病を関連付ける論文では、そもそも対照群がないことが多い。

対照群がない

骨格パラメータは調べない

母乳に注目する著者は、ビタミンDの血中濃度ばかり調べる。一番重要な、子どもの骨は、あまり調べない。

たまに調べると、ビタミンDの血中濃度と骨の健康には、相関がない結果になったりする。

かたよった条件下では、ビタミンD濃度と骨のミネラル量に、逆相関が見つかることさえある1

なので、ビタミンDの研究者たち、骨界隈の研究者たち、過去の論文を分析した研究者たちは、

「ビタミンDの血中濃度と乳児の骨の健康は、関係ないのでは?」

あるいは

今のビタミンD血中濃度の基準は、見直す必要があるのでは?

と考えている。

カットオフ値

どんな分野でも、仮説が間違っていることはよくあるし、仮説と検証を繰り返して真実に近づこうとするものなので、通常大きな問題にはなりません。

しかし、偏った研究デザインじゃないと関連を示せないような説は、普通ならすぐ淘汰されますが、母乳育児界隈では、50年以上も生き残ってしまいました。

なぜみんな信じてしまったのか…なにごとも、知識がないと、「なんとなくのイメージ」で語ってしまいがちです。

ということで、次の記事からは、ビタミンDについての最新情報をまとめてみたいと思います。

くる病とビタミンDのシリーズはこちらから読めます。

参考

1 Garcia, Audry H., et al. “25-hydroxyvitamin D concentrations during fetal life and bone health in children aged 6 years: a population-based prospective cohort study.” The Lancet Diabetes & Endocrinology 5.5 (2017): 367-376.

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

理系育児オススメ記事

ページ上部へ戻る